[ 感想 ] :: IMPRESSION
年末年始に読んだネプリ
2026/01/17
はじめに
今回の記事は引用がメインで、感想は短いものを書いたり書かなかったりしています。 緻密な評を書けず申し訳ないですが、短詩においては「選」自体が評になりうる、と自己暗示をかけてやっていこうと思います。
ネットプリント『無重力通信#1』
鞭の音だけがきこえてくる水辺
nes「馬の景色」 一読して笑いました。こういった、見えないところで何か起こっている不穏な感じは、現代川柳の醍醐味のひとつかなと思います。 タイトルから連想すると馬に対する鞭なのかなと思うのですが、この句の不穏な空気から「何か」が人間を叩いている印象も受けました。
かみなりが生肉に染み込んでいる
同 唐揚げをつくるとき、下味として醤油やにんにくを漬け込むとかなりおいしいですが、かみなりを染み込ませるとどうなるのでしょうか。 雷という一瞬の現象が生肉に染み込むことで引き伸ばされている感覚がおもしろく、『かみなり』と平仮名にひらかれているのも技巧的だなと思います。
私の経験になるが、これは面白いのではないか、と思って出した題に、いつもより面白い句が集まるわけではない。
nes「題詠考」 この文章をネプリで読める嬉しさがあります。nesさんには遠く及ばないものの題詠については私も最近考えていて、まず「なんとなく詠み込みたい題となぜか詠み込みたくない(関連ワードで攻めたい)題」があるな、ということです。 川柳句会アイリスの過去の題でいうと、私の場合は
詠み込みたい: 恐竜、虫歯、海岸、踊る、閃く、調査、報復、マジック、年の瀬
詠み込みたくない: 動物、芽吹く、ファンタジー、加速、次元、きらめき、オカルト、BL、クリスマス
中間: アイリス、ピュア、宝石、正直、ラッキー
みたいな感じなのですが、これって川柳人の方に共通する感覚だったりするでしょうか。動物だと具体的な種類を言ったほうがおもしろくなりそうだけど、恐竜の具体的な名前(イグアノドン、トリケラトプスなど)を詠み込むとなんとなく外しそう、みたいな…。 基本的に題は詠み込まない方針の方ももちろんいらっしゃるでしょうし、題詠に対するスタンスに作者の川柳観が出そうだなと感じています。
あと、もうすでにある試みかもしれないのですが、題を伏せた状態で川柳だけを読み、題当てゲームとかもおもしろそうだなと考えています。 というのも、
こちらの記事中の
警察官が警察官を呼んでいる
森田律子 ↓
題「しょうもない」
がおもしろすぎて…。 お笑いの手法で言うと 大喜利の答えだけ先に出す→お題を後からばらす みたいなことだと思うのですが、題詠ってやっぱり色々考えられそうだなと思います。
短歌ネットプリント「Zzz」vol.2
告知画像が福岡タワーで嬉しい気持ちになりました。
待っているあいだ膨張しつづけた空港の責任は負えない
高橋寧「フリップ・サイド」 結句『責任は負えない』で、膨張しつづけていた空港から空気が一気に抜けるような感覚があり、とてもおもしろかったです。『空港の責任』の『の』に、短歌が上手いってこういうことか、と納得するような感動がありました。
ブランコで景色を繰り返すたびに私が遠くなる 助かろう
織原禾「目撃」 ブランコの遠心力でどんどん高くなっていく景かなと捉えたのですが、『私が遠くなる』という表現や、『助かろう』って誰に話しかけてるんだ…?という奇妙さがとても心地よかったです。二句〜三句の跨り方(けしきをくりか/えすたびに)が、本当にブランコに乗っているようなリズムで、それもおもしろかったです。
相互一首評もめっちゃかっこいいです、評で小説を書けたら無敵感がありますね。
熟睡 vol.1
すきっていうなまえのサラダをつくったら校庭のように真ん中にはなんもない
感覚がにぶっていってなでられてもなぐられても悲しかったらどうしよう
津崎一加「冷凍」 手書き本当に素敵で、正直自分もネプリ出すとき真似したいです(達筆な方うらやましい…)。 引用の二首目、容赦ない感じが特にいいなと思いました。どんな入力に対しても一定の出力しかできないアルゴリズムになってしまってもなお、最後に残るのは喜怒哀楽の「哀」なのが切ないです。
府境
白梅も大阪城も縦であり
蝌蚪を追ふのろまな蝌蚪や粉薬
奥村鼓太郎「今生」 蝌蚪は「かと」と読み、おたまじゃくし、とのこと。俳句は完全に未知の世界なのですが、引用の二句は現代川柳味を感じてとてもおもしろかったです。
プリクラの変な割り勘を済ませて時間の中でハートをつくる
日本の通信料を嘆きたる方の涼子や米倉涼子
山口遼也「輸送」 最近読んだなかでトップクラスにすきな短歌連作でした。 プリクラって多くの筐体で500円が一般的だと思うんですけど、二人でも三人でも四人でも綺麗に割れないから入るときにちょっと変な感じになるんですよね。そのあるあるがまずおもしろいのと、下の句の『時間の中でハートをつくる』という言い方が非常に技巧的で、プリクラのベルトコンベア感がぐっと迫ってくるような印象を受けました。 二首目について、「短歌に人名を出すことの倫理観」といった議論はあると思うのですが、ここまで徹底されると笑うしかなくなるなと思いました。なんとなく、米倉涼子のあのCMでふざけられるのは我々が最後の世代な気もします。
石山ふねさん、nesさん、ツマモヨコさん、水埜青磁さんのネプリ
踊り場でいつも振り返るのは誰だっていいのに首が浮かぶの
石山ふね「当番制」 怖い短歌すきなので嬉しいです。結句で怖がらせてくるのはもちろんのこと、『誰/だって』の句切れが怖さを増幅させているような感覚があります。
花しぶき カーテンを買い占めながら死にたいと言ったのに 水ふぶき
ツマモヨコ「花形」 この歌を構成するすべての要素を先に言いたかった…と悔しくなるくらいかっこいいです。『カーテン』のテクスチャーが良いのもそうですし、最初の『花しぶき』と最後の『水ふぶき』というフレーズがそれぞれ鉤括弧みたいに見える気がします。 文字だけ見るとそんなはずないんですけど、なぜか共感してしまう歌で、カーテンを買い占めたら部屋の内側にカーテンの厚みが侵食していき、そこに埋もれる自分をカーテンのない世界中の窓から見られたい、みたいな…。
悲しいことだが 1である
nes「ロミオとシンデレラ」 ジュニークっぽくも読めつつ、個人的には上八・中零・下五の字余りのリズムで読みたいと思いました。中零という言葉はないと思うんですが、本来七音あるところをぽっかり空けた読みたさがあります。 nesさん古参からすると、
まっとうな8だったからしょうがない
nes「QWERTY配列の欠落、あるいは祈り」(「風切羽」vol.1より) などの句を思い出します。「数字の手触り」みたいなおもしろさを感じました。
名前すぎる愛をご覧にいれましょう
水埜青磁「主演以外の日」 重すぎる愛、でかすぎる愛みたいな表現はよくありますが、『名前すぎる愛』。名前がそもそも愛なので名詞同士の近さは感じつつ、〇〇すぎる××の構文においてすごくエモーショナルな組み合わせになっていてすきでした。
『Neo troche』ネプリ
知っている花の名前を言い合って終わりがそろそろ近いしりとり
谷村ゆり「loin nuit」 タイトルから、夜にしりとりをしている情景を思い浮かべました。花縛りでしりとりをしていてもう尽きそう、というシンプルな構造とはじめは捉えたのですが、この修辞で書かれたときに『終わり』が世界の終わり感があるというか、世界から花が消滅するような怖さを感じてとてもおもしろかったです。
ボム兵の地元のことをボム兵にきかないみたいにざらついた雪
有賀あむ「胃のこと」 連作タイトルおもしろすぎる。引用した歌もそうですが、ずっと真顔でふざけている感じの非常にすきな連作でした。 「AみたいなB」という比喩において、一般的にはAとBの取り合わせの共感性や意外性で詩情が生まれると思うのですが、この歌ではそもそもA自体でおもしろいことを言っているので二倍お得な感じがありました。 ボム兵の爆発のイメージと雪の静寂のイメージもいい対比になっているなと感じます。
女子枠と冷笑されるとこだった音楽の抱擁を信じる
太田葵「Ethereal」 まず上の句でどきっとしました。『女子枠』も『冷笑』も、詩にあまり出てこない(インターネットの)いやな言葉をあえて出すことで、最短距離で静かな怒りを表現しているのではないかと…。 すごくイメージの話になってしまうのですが、上の句で溜めたエネルギー分、『音楽の抱擁を信じる』というフレーズの爆発力が増していると思いました。
相互評、散文も非常におもしろく拝読しました。
ネットプリント「夜客の吐息」
ひとしきり旗を立てると褒められて退屈だったマインスイーパー
辻村陽翔「冬の不発」 「色」が精密に統一された連作という印象を受けました。冬のモノトーンな世界に『聖夜』『炎』『電波塔』といった赤のイメージが重なっていくような。それでいうとマインスイーパーを持ってきたのが非常に技巧的で、グレーの殺風景な盤面に赤い旗を立てていく様子が連作の色彩感覚と一致しています。 (余談ですが)マインスイーパーの歌を最近私も作って、やっぱり抒情性ありますよね?!みたいな気持ちになりました。勝手に盛り上がってすみません…。
わからなくて映画の音だけ耳へ注いだ 完全栄養食に似ていた
空木洞「逃避行・冬」 日清のカレーメシ的なものを想像したのですが、音だけの映画の、細切れな情報が入ってきて何が起こっているかわからない感じを、どろどろの栄養食にたとえているのがめっちゃおもしろかったです。 注いだ→お湯を注ぐみたいなダブルミーニングも上の句から下の句の自然な飛躍につながっていると思います。 また、初句六音の『わからなくて』が切実さを伴っていると感じました。
以下、引用だけで申し訳ありません。いずれのネプリもとてもおもしろかったです!
石山ふねさん、桜庭紀子さんのネプリ
逆光が訃報をなでる朝でした 桜庭紀子「alongside(『658km、陽子の旅』より)」
パッチール柄の挨拶してみてよ 石山ふね「なんにでも」
((sway)) Pt.1
気まぐれで噛んだ氷が連れてくるならない貧血の豆知識 神無よわ「filter」
生のパスタ 生のクリーム 想像のあなたの舌がざらついている 由良鴻波「WINTER HEAVE」
ネットプリント「開演 vol.1」
愛の言葉は短いものが多いねと言われてわたしもそう思います 木ノ下貴央「パラゴン」
怒ってもしかたないのはアイスならシロップ、ホットなら角砂糖 中島丈多郎「duration」
ほくたん・とんたん合同ネットプリント「の雪」
完璧な立方体を舐めるやう 冬の朝に吐く息のぬるさは 雨宮湖都「残り湯」
アルバムをふやかしている水底に側湾症の人魚の泳ぎ 空木洞「ホワイトクリスマスは祝わない」
長いマフラー略してガフラー ガフラーは五人までなら同時に巻ける 大崎素直「ベリークリスマス」
いつまでも愚かでいたい 道のあるほうだけ光る夜の公園 金井晶「araama」
この法典は重量オーバーです 崩れゆく水晶宮に僕らの骨も 屈折誰何「星灰の記憶」
川べりに積まれゆく雪うず高く動詞「働く」のリフレイン 小西電波「揺れて」
もう増えない世界時計のリストには君しか住んだことのない都市 小林水「触れる」
わたしを戸締りしないと想像が現実として入ってくるよ 斉東司「3LDK」
16時に入る飲食店 だるま落としの正確なルール 佐々木電柱「いくつかのルール」
抜刀の対が笑顔であるくらいやさしい棘でありますように 祥「棘」
あの本の返却期限は一月で理解するまで年明けないで 千葉時生「札幌の奇怪♡な夜」
運賃をじゃらつかせている掌に残らないのはあなたの匂い 辻村陽翔「目を見るために」
ぼくの喉仏を噛み砕く蛇がいる ぼくが睡っているときだけの 橋本五月「喉仏」
意味のない嘘ばかりつく人だったホクロが鼻の中にあるとか 蒜屋すみ「春よ待ってて」
消しゴムの跡は目を細めて見れば読めそうな冬の日差しのような やまぐちわたる「ROMANTIK」
くらい夜が追いかけてきて、瞑っても、くり抜いてもそこにある、夜 横山航路「枯燥」
わせたんQたん合同ネプリVol.1
眩暈のするままに日差しを歩いたら泳がされているようだった 斎建大「猫の背」
屋上の煤を指先に集めれば死角で燃えている高島屋 大江らま「decay」
本人の意思と関係なく発売されたベストアルバムのふり 計見洸在「おおいな」
ふるさとの話をされてわたしからふるさとが出るのを待っている 小杉セオ「庭」
星を見る角度で歌詞を見る時間 マイクはどこかに落ちているはず 汐見りら「フリータイム」
初恋を大切に思っている人ばかりじゃないよ 全島に夜 夏机「星へ至って真面目なジャンプ」
わたしの喉にわたしの声が貼りついてゆっくり傷んでいくわるい夢 成宮櫻子「暗室」
ひかりよりわたしの多いこの島の変になるまえの水平線 西「線が変になる」
崖までの童話/嵐をはくちょう座 きみと結露のように走った 葉頼「月詠」
ペン立てに多すぎるペンの一本を引き抜く 冬、という顔をして 福山ろか「繊維」
ぎこちなく触ってくれた心臓の裏の値札を剥がす役だよ 松田葉「cycle」
撃たれる鹿の弛緩がいつも似てしまう詩篇に夜半への遅効性 山本仮名「NIGHT FLIGHT」
海へ降る雪が何かの水葬を仕立て上げることが倫理でも 雪永雪道「水葬」
皆さま、素敵なネプリをありがとうございました。